子どもたちの多様性を育みたい。ミテ・ハナソウ展を仕掛けた佐倉市立美術館・学芸員の想い更新日:2019年08月20日

2019年8月3日より佐倉市立美術館でスタートした「ミテ・ハナソウ展2019 もうひとつの夏休み」(※以下、ミテ・ハナソウ展)。少し覗いてみると、一般的にイメージしていた美術館の光景とは少し様相が異なることに気づきます。普通なら「歩きながら静かに展示を鑑賞する」わけですが、ミテ・ハナソウ展では来館者の方たちが、展示室全体に敷かれたカーペットの上に座り込んで、何やら作品の感想をその場で口にしています。そして来館者の方たちから言葉を引き出しているスタッフの姿が。果たしてミテ・ハナソウ展とは一体どんな展覧会なのでしょうか。佐倉市立美術館・学芸員の永山智子さんにお話を聞くと、この展示の狙い、そして美術を通じた子どもたちへの想いが見えてきました。

思ったことは言葉にしよう。ミテ・ハナソウ展の狙い

佐倉市立美術館学芸員・永山智子さん

ー早速ですが、ミテ・ハナソウ展はどういった展示なのでしょうか?

対話型鑑賞に取り組む「ミテ・ハナソウ・プロジェクト」の一環としておこなっている展覧会です。

「ミテ・ハナソウ・カイ」では、来館者の方々7〜8人に対してひとりの鑑賞コミュニケーター「ミテ*ハナさん」がつき、皆さんから作品に対する意見や感想などのいろんな言葉を聞き出して、整理していきます。

対話型鑑賞は、1991年にニューヨーク近代美術館(MoMA)の教育部長だったフィリップ・ヤノウィンさんらが開発した美術鑑賞手法=VTS(Visual Thinking Strategies)がきっかけとなり、今では全国の多くの美術館で取り入れられています。

今回のミテ・ハナソウ展では、池平徹兵さん、大﨑のぶゆきさん、平子雄一さんの作品が展示されている(写真は平子さんの作品)

ーなぜ佐倉市立美術館で取り入れることになったのでしょう?

佐倉市立美術館がおこなっていた「学校連携事業」の見直しを考えたからです。

学校連携事業とは、地域の美術館や博物館が学校と連携して、子どもたちの学びを支援する取り組み。もともと佐倉市立美術館では開館当初から教育普及に取り組んでいたのですが、学校から、初めて美術館にやってくる子どもたちへの対応に、より力を入れていくことになったわけです。

私たちは、NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA=アルダ)にも協力してもらいながら企画を詰めていきました。そのなかのアイデアのひとつが「対話による美術鑑賞プロジェクト」です。

子どもたちは美術館の敷居が高いと感じているかもしれないし、作品は黙って鑑賞しなければいけないと思っているかもしれない。もともと抵抗がある状態で、クラスにひとり学芸員が同行して作品を説明したとしても、「美術館=楽しい」という記憶は残りませんよね。むしろ逆効果かもしれません。

だったら、まずは「思ったことを自由に言葉にしていいんだよ」「ほかの授業のように一つの正解があるわけではないんだよ」と伝え、先入観を取っ払ってあげたい。それが作品に触れるおもしろさ、ひいては美術館へ足を運ぶ楽しさにつながるはず。そう考えました。

 

「対話型鑑賞」に正解はない。だからおもしろい

ー「対話型鑑賞プロジェクト」を始めるにあたって何から手をつけたのでしょう?

2013年の終わりにキックオフとなるレクチャーを開催し、2014年から鑑賞コミュニケーターの募集をスタートしました。最初は応募があるかすら不安だったんですが、20名の枠に50名近い申し込みがあって……1年間の研修を経て、本格稼働したのが2015年ですね。

ーどういう方たちを採用したんですか?

あくまでも傾向なのですが、子育て中、もしくは子育てがひと段落した女性たちが多いですね。最初の頃は「これまで世界中の美術館を巡ってきていて」とか「こういう仕事をしてきたので地域に還元したい」とか言ってくれるシニア層の方たちからの申し込みもあったのですが、美術の知識はあまり必要なくて。それよりもシンプルに「子どもたちと美術を楽しみたい」と思ってくれている人たちを採用していたら、女性が多くなりました。

ー「1年間の研修」というお話がありましたが、どういったことをやっているんですか?

とにかく人の話を引き出すトレーニングですね。どうしたら全員が話しやすい場がつくれるのか、どういう言葉を掘り下げていけば、対話が深まっていくのかをいつも議論しています。

基本的に鑑賞コミュニケーターの問いは「作品のなかで何が起きていますか」「作品のどこからそう思いますか」「他に何かありますか」の3パターンに集約されます。ただ、やってもやっても正解がないんですよね(笑)。

最初は緊張していた子どもたちも少しずつ自分の意見を言えるように

たとえば、作品を見た子どもが「動物に乗っている男の子が寂しそうな顔をしている」と言ったとします。この場合、「どこから男の子だと思ったの?」と問いかけてもあまり意味がない。「寂しそうと思ったのはどこから?」といった質問を投げかけると、「色が寂しそう」「表情が暗い」というように対話や思考が深まっていく……と思っていました。

ところが、ある日デビューしたてのミテ*ハナさんが「どこから男の子だと思ったの?」と聞いたら周りから「自分は女の子だと思う」みたいな意見が出て、意外と議論が盛り上がったことがありました。だから、「前回うまくいったから同じようにやれば今回もうまくいく」みたいなことはないんですよね。対話はナマモノなので、経験を積んでいくしかないわけです。

 

自分たちで答えを見つけられる大人に

ー「対話型鑑賞プロジェクト」を始めて変化はありました?

ひとりひとりの子どもにどんな変化があったか、知ることは難しいですが、とりあえず佐倉市立美術館の認知度は上がったと思います。小学校で声をかけても知っている子どもが増えましたし、中学校の職場体験で来た生徒が「ミテハナで来たことがあります」と言ってくれたこともありました。現場で頑張ってくれている鑑賞コミュニケーターのみなさんはなかなか結果が出なくてやきもきしていたけど、私はすごいことだと思います。無風だったところに風が吹いたわけですから。

展示の最後に心に残った作品をピックアップし、感想を綴ってもらう

ー逆に難しいと感じたことはありましたか?

あります、あります。静かに鑑賞したい来館者の方との問題です。ミテ・ハナソウ展以外の普通の企画展でも対話型鑑賞を取り入れているので、なかには「子どもたちがうるさい」と感じている来館者の方もいるかもしれない。ただ「子どもたちが美術に興味を抱いている様子が素敵だった」というアンケートもあるので、少しずつ寛容な社会になっていったら嬉しいですね。

ー最後に、今後の目標について教えてください。

そうですね……子どもたちには変化に対して想像力をもって対応していけるよう育ってほしいな、と思います。国語や数学なら教科書や参考書に正解があるけど、自分たちで答えを見つけるのが美術の性質だと思います。これからは、そういう力が求められる時代。アニメひとつを見ても、勧善懲悪の時代ではなくなってきていて、「そもそも正義とは?」みたいなところから考えさせられる作品が増えてきている。だからこそ、多様性を受け入れられる大人になってほしいですね。

 

【Profile】

永山智子(ながやま・のりこ)

佐倉市立美術館・学芸員。教育普及事業担当。佐倉市立美術館の「対話型鑑賞プロジェクト」の仕掛け人。

 

ミテ・ハナソウ展2019「もうひとつの夏休み ―フシギの世界で、ミテ・ハナソウ!」

2019年9月16日(月・祝)まで開催

http://www.city.sakura.lg.jp/sakura/museum/exhibition/2019/mitehanasouten2019.html

佐倉市立美術館ホームページ:http://www.city.sakura.lg.jp/sakura/museum/

佐倉市立美術館「ミテ・ハナソウ」特設ページ:http://mitehana.com/